大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和52年(わ)2号 判決

被告人 堀江渡

昭二三・三・一一生 郵政事務官

主文

被告人を罰金一五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中証人釜田和弘に支給した分は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は釜田和弘らと共謀のうえ、日産サニー広島販売株式会社から中古の普通乗用自動車(広島五五さ二四八八号)を購入して自動車登録フアイルに登録するにあたり真実は釜田和弘が購入して所有するのではないのに同人が所有するものであるかのように虚偽の登録をすることを企て、情を知らない前記会社の従業員中村維俊に対し右移転登録の申請を委任し昭和五〇年一二月二四日広島市観音新町二丁目七番五〇号広島陸運事務所において同人をして前記車両の新所有者の氏名は釜田和弘であり、その住所は広島市牛田南二丁目一〇の一二である旨の虚偽の内容を記載した移転登録申請書とともに釜田の印鑑証明書および譲渡証明書等を添えて提出させ、同事務所の登録官をして即日東京都千代田区大手町二の二の二自動車登録管理室所在の自動車登録センター電子情報処理組織登録フアイルにその旨不実の記載をさせたうえ、即時同所に備えつけさせて行使したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中公正証書原本不実記載の点は刑法六〇条、一五七条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、同行使の点は刑法六〇条、一五八条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するが、右の公正証書原本不実記載とその行使との間には手段結果の関係があるので刑法五四条一項後段、一〇条により一罪として犯情の重い不実記載公正証書原本行使罪の刑で処断することとし、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を罰金一五万円に処し、右の罰金を完納することができないときは同法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用のうち証人釜田和弘に支給した分は刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

なお弁護人らは、(一)本件起訴処分は違法、違憲な起訴処分であるから本件公訴は棄却されるべきである、(二)本件は可罰的違法性を欠く、(三)本件登録フアイルは公正証書に該当しない旨主張する。

しかし、(一)本件起訴処分が違法、違憲なものでないこと、(二)本件が可罰的違法性を欠くものでないことは明らかであり、又(三)本件自動車登録フアイルは電磁的記憶装置によつて行われているが文書として再生することは可能であり、自動車登録制度の有する行政目的、私法上の機能等を総合判断すると刑法一五七条一項にいう「権利義務に関する公正証書」に該ることも明らかであつて、弁護人らの右の各主張はいずれも採用できない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷邦彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例